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「知られざるTEAM KUNIMITSUのアートワーク」小島一浩監督兼デザイナーが語る 前編

2024.03.22

 2024年 SUPER GT開幕まであと2週間。ファンにとっては長いオフシーズンに感じるこの時期の楽しみのひとつが、各チームの“新カラーリング発表”だろう。今回はGT500クラスに参戦するTEAM KUNIMITSUの監督としてチームを率いる一方、車両やウェア類のデザインを手掛けている小島一浩氏に、自身やレーシングチームのデザインプロセスについて、初めて聞いてみました。

 

 

 小島氏は、日本で最初のデザイン教育機関と言われる専門学校桑沢デザイン研究所研究科を卒業後、1996年からTEAM KUNIMITSUにマネージャーとして加入し、現在は監督としてレースマネジメントおよびアートワーク面の総責任者を務める。

 デザイン学校出身という経歴を活かし、レース系広告代理店のアルバイト時代から制作物やステッカーなどのデザインを手掛けていた小島氏。レース車両では1990年のインターナショナルF3リーグに参戦したミカ・ハッキネンとエディ・アーバインが駆ったCASIO TEAM WSRのデザインが最初の作品となる。

 「自分のデザインに対して、話をすることは苦手ですが…」と言いながら、過去のデザインについて、話を始めた。 「あの頃はパソコンではなくて手書きだったので、ラルトRT34のサイドを写真で確認しながら手書きでロゴを入れたりしていました。当時は印刷もデジタルではないので、まずロゴを清刷から起こしてから貼ったりして、本当に“手書き”の状態でしたし、クライアントの依頼通りに描き起すだけでした。」

 小島氏がTEAM KUNIMITSUのマシンを本格的にデザインし始めたのは、1996年にチーム加入後のRAYBRIGカラーのNSXから。その後TEAM KUNIMITSUのマシンを小島氏がすべてデザインしており、現在では、レースにおける最終決断を下す監督業をこなす一方で、チームのほぼすべてのデザインワークを考案している。

 

 また、TEAM KUNIMITSU以外でも何件かクライアントを抱えており、レースカーのデザイン業務をこなしている。2024年も違うカテゴリーのレースに数台が参戦するとのこと。

 

 多方面にわたりデザインを手掛けてきた小島氏に近年のマシンデザイン事情を聞いてみたところ、基本的には自動車メーカーから車両の5面図を貰い、イラストレーターに起こす作業から始まる。最近はデジタル技術が発達したため、マシンデザインでのラフ画は描かず、あくまで“俺流”だというが、小島氏は左サイドからデザインを考案するという。

 「まずは“スポンサー様のロゴの置き方”が重要なので、ロゴを置いてから、どういうふうなイメージにしようかなどを考えながらデザインを始めます」とデザインの構想手順を語りつつも自分がレース運営もデザインワークもどこまで集中し、没頭できるかが大事だと噛み締めながら話をしていた。

 

 2024年1月に新車STANLEY CIVIC TYPE R-GTのテスト専用カラー『ST24P01G』をお披露目した。今でこそTEAM KUNIMITSUのシーズンオフ専用カラーはファンおなじみのものになっているが、改めてテスト専用カラーが誕生したきっかけについて聞いた。

 小島氏は「テスト専用カラーを初めてやったのが2010年のHSV-010になったときなんですけど、シェイクダウンの前にシート合わせに行った童夢さんで見たHSV-010が衝撃的にカッコよかった」と当時を思い出して少し興奮気味に語ってくれた。

 「そのときに見たHSV-010はもちろんカーボン地のままだったけど『こんなレースカーが世の中にあるの!?』という衝撃を受けました。それで自分のなかに『このクルマは何かやりたいな』という思いが生まれ、もうすぐにでも何かを作りたかったので、当時で言う『ロービジ』カラーを作りました」

 

 現在のTEAM KUNIMITSUのマシンカラーには、段階や進行を意味する『PHASE』というネーミングが用いられているが、当時はテスト専用カラーを『ロービジ(ロービジビリティー/低視認性)』と呼んでおり、これが現在に続くTEAM KUNIMITSUのテスト専用カラー誕生のきっかけだ。

「当時は公式テスト以外だったら結構好きなことができたので、ゼッケンの書体なども変更したりして、レース中ではできないことを表現していました。そういったことは他のチームはしていなかったので、メディアに取り上げられる回数も増え、スポンサーさんの露出増加にも繋がりましたね」

「テストカラーを作ると、本戦用カラーをより修正できるようになります。同じようなラインで作れば『もう少しこうしたい』『ロゴもこう配置できる』というイメージを作りやすいメリットがあります。そういったことを含めると、自分のなかでは本番に向けての良いステップになると思っています」

「ただ、そう考えるとテストカラーは本戦カラーをモノトーンイメージにしたものになるので、テストカラーお披露目のときには本戦カラーが概ね完成していないといけない。そういった意味ではデザインを考える期間が短くなってしまうので、簡単かと思いきやかなり大変な作業なんです。でも、これだけ長くにやってきましたし、期待してくれている多くのファン皆様もいるので、続けていきたいとは思っています」

 

 小島氏が監督とデザイナーというふたつの立場から情熱を注ぐTEAM KUNIMITSUだが、マシンデザインの面では、2021年に大きな変化が訪れる。長年ともにレースを戦ってきたスタンレー電気株式会社のRAYBRIGブランドが終了することになり、メインブランドがSTANLEYへと変わり、マシンカラーが一新されることになったのだ。

 RAYBRIGからSTANLEYに変わることで、マシンカラーはそれまでのブルーからシルバーとブラックを基調とするデザインに変更された。小島氏はシルバーの部分に、近年のクルマ業界で流行する艶消しの“マットカラー”の質感を取り入れたいと考えた。ただ、シルバーをマットにするとかなりトーンが落ちてしまうことから、試行錯誤を重ねた。

「シルバーの質感や太陽光で受ける光の反射とブラックのグラデーション、それに加えてオレンジとのコントラストをどうやってうまく出すか考えたとき、やはり少しマットを入れたかったです」

「そこで、メタル調のシルバーにラミネートを行う『セミマットラミネート』をかけることにして、質感を少しマット調に振りつつも、光を得ることができました。その結果、想像どおりの色を出すことができたと思います」

 こうして完成したSTANLEYカラーは、現在まで続くカッコよくスタイリッシュなTEAM KUNIMITSUのイメージづくりに貢献していると言っていいだろう。

 

 

 そんなTEAM KUNIMITSUでは、例えば昨年の本戦用カラーだと『ST-23P02G』、今年のテストカラーだと『ST24P01G』というある種のコードネーム的な名称を付けている。

 この意味については、STがスタンレー、24が年度、PがPHASE(フェイズ)、そして末尾のGが「チャンピオンを“掴み獲る”」という『GRAB(グラブ)』から取られている言葉だ。

 また、TEAM KUNIMITSUのマシンには2013年のHSV-010から、フロントバンパーに『シャークティース(またはシャークマウス)』と呼ばれる鮫の口が描かれている。 『クルマ自体をキャラクター化させて、レーシングカーに鮫のようなイメージを付けて、子どものファンを増やしたい』という思いからスタートした。今では、チームのキャラクターとして鮫(名称:RAY)を使用している。

 

 2024年シーズンの本戦用カラーを発表していないため詳しくは言えないと言いつつ、小島氏はシビック・タイプR-GTを見るたびに処理方法を考えており、2024年のテストカラー『ST24P01G』でも、テストごとにデザインが異なっている部分があるということで、サーキットでマシンを見る際にはチェックしてみるのも良いかもしれない。

 気になる2024年のSTANLEY CIVIC TYPE R-GTの本戦用カラーについては「強く、バランスよく」というイメージを踏襲。そのなかでも「いろいろなことを模索し、新しいテクニック」を取り入れたデザインになるとのことで、他チームとは違った見せ方をしている部分もあるため、正式発表を待ちたいところだ。

 小島氏にTEAM KUNIMITSUのマシンデザインについて聞いた前編はここまで。後編では、こちらも小島氏がデザインを手掛けるドライバーやメカニック着用のスーツやウェア、グッズ、ピットまわりの装備品などを含めたデザイン論を紹介する。

 

 

■Profile:小島一浩(こじま かずひろ/株式会社チームクニミツ代表取締役社長)

専門学校桑沢デザイン研究所を卒業後、1996年にTEAM KUNIMITSU加入。マネージャー業と並行して車両やユニフォームなどのアートワークの総責任者として多くの作品を手掛ける。2010年監督に就任し、2018年・2020年にスーパーGT GT500クラスシリーズチャンピオンへと導く。高橋国光さん逝去後もチームを率い、2024年も監督としてスーパーGT GT500クラスで戦う。